2022年1月 おしるこ

 南泉は連日内部業務に駆り出されていて、疲労困憊の状態にあった。
 身体を動かすものとは違い、頭をフル回転させる業務は常とは違うからこそ疲労度の蓄積具合がすさまじく、南泉は自室に戻るだけで精一杯という感じであった。
 自室に戻ったらそのまま床に倒れ込んで動けずにいる、という日々になっていた。
 動きたくない気持ちが強すぎて、食事もろくに取らずにいたので、なおさら動けなくなっていた。
 つまりは、悪循環の繰り返しを自ずと選んでいる状態だ。

 今日も今日とて床に倒れ込んでいたら、長義が勝手に部屋に入り込んでくる。
「やあ猫殺しくん、意識はあるかい?」
「……にゃー」
 返事をするのが面倒くさくても、返事をしないほうが面倒なことになることを知っているので、南泉は返事をするが、疲労によって回らない意識が猫の鳴き声となってしまう。呪いだなぁと思えど、それをどうこう言う気力もないので気にしないことにするのが手っ取り早いので、南泉は即座に気にしないことを選ぶ。
 長義もそこに触れるつもりはないらしく、話を進めていく。
「今日もお疲れのようだね。そんな君に差し入れだよ」
「ああ?」
 倒れ込んでいる南泉の眼前に見えるのは、お椀だ。中身は見えないからわからない。しかし甘い匂いが鼻をかすめる。
「にゃんだ?」
「自分の目で確認しなよ」
 起きろ、という意味なのだろう。長義から手が差し出される。南泉はその手を素直にとって起きあがる。
 起きあがると今度は手にお椀と箸が乗せられる。
「……おしるこ?」
 あんこと餅が浮かんでいる。このふたつが入っているものは、おしるこ以外、南泉は知らない。
「そう。俺が猫殺しくんのために作った、おしるこだよ」
「にゃっ!?」
 長義が作った、という言葉に南泉は驚愕の声をあげてしまう。己ではわからないが、きっと目も猫のように思い切り見開いた状態になっているだろう。
 そんな南泉の様子を長義は楽しげな表情を隠すこともせず、わかりやすく浮かべ、見つめてくる。
「その表情だけで、作った甲斐があるな」
「おま? え? は? だって料理できないじゃねぇか……」
 そう。長義は料理ができない。できないというか、やらない。厨当番のときは、当番としての仕事はするが、己のために料理は作らない。己で作らないが、南泉に作らせる。そういう刀だ。その長義が作ったというのだから、驚くなというほうが無理な話である。
「作ったとは言ったけど、これはレトルトだよ。おしるこもレトルトがあるんだから便利だね。まあレトルトでも俺が君のために作ったということに価値があると思わないか?」
「あっ……なる、ほど……にゃ?」
 レトルトという種明かしがされても、レトルトですら己でやろうとしないのが長義なので、やはり驚きはおさまらない。
 そんな驚きっぱなしの南泉を長義はとても良い笑顔でみつめながら「食べさせてあげようか?」などと言ってくるので、南泉は思わず「いらねぇ! にゃっ!」と叫ぶのであった。

―了―