2021年10月 カボチャ

 喉が渇いたから厨から飲み物を取ってくる――そう言って南泉が部屋を出て行ってから、飲み物を取ってくるにしては随分な時間が経過していた。
 机に頬杖をつき、戻ってこない南泉がなにに捕まっているのか、ということを長義はあれこれ思案する。
 待つだけ、という手持ち無沙汰を解消させるための時間潰しだ。
 思案するのは、手持ち無沙汰だからとなにか他のことをし始めて南泉が戻って来たときに、手持ち無沙汰ではじめたことに気を取られていたり、うっかりそちらに熱中して南泉を蔑ろにしてしまっては不本意だからだ。
(まあこの状況においては、優先順位は彼が一番なのだけどね……)

 それにしてもあまりにも戻ってこない南泉を迎えにいくかどうするか。
 悩むものの、迎えにいけば過保護だとか、信用してないのかとか、いろいろ文句を言ってきそうなので下手に動くのは悪手になってしまう。
 どう考えても南泉の性格的に、悪手になりかねない。
 二振りで心地良い時間を過ごしていたからこそ、それを不意にしてしまうのもばからしい。
 やはりおとなしく待つのが得策であろう。
 その結論にいたり、ではこの手持ち無沙汰をどうしたものか、さらに思案しようとしていたところに、「開けてくれ、にゃ」という声が届く。
 ようやく戻ってきたのかという感情と、開けてくれとはどういうことかという疑問が湧くが、扉を開ければすぐにわかることなので、長義は素早く言葉通りにする。

 「今開けるよ」の言葉とともに扉を開ければ、大きなお盆にぎちぎちに乗せられたオレンジ色をしたデザートの数々が目に飛び込んでくる。
「おや、またずいぶんとすごいことになってるね」
 飲み物を取りにいったはずが、飲み物ではなく大量の食べ物を持ち帰ってきたのだから、長義からはそんな言葉が自然とこぼれ落ちてしまう。
 南泉は少々げんなりした表情を浮かべながら、小さな机の上に大きなお盆を乗せると、そのまま大きなため息をこぼす。
「ハロウィン、だっけか? なんかそれで藤四郎兄弟たちがかぼちゃ使ったとかで、そんときに出たやつ使っておやつの試食作ったんだと……」
 「飲み物取りにいっただけなのに、捕まってとんでもないことになったにゃ」とさらに南泉はこぼす。
 誰に捕まったのか、なんてことは訊くまでもないし、タイミングが良いのか悪いのかなんとも言い難く、長義は「それはお疲れ様だったね」と苦笑しつつ、そんな言葉をかけるくらいしかできなかった。

―了―