2021年7月 天の川

 仕事の合間の息抜きで、厨に足を運んだ長義は、そこで繰り広げられている光景に、目を奪われた。
 それはなんてことない、いつもの光景といえばいつもの光景だ。
 にもかかわらず、自分もやりたい――そんな感情がなぜか沸くものだった。

「燭台切、ひとつ頼みがあるんだが……」
 作業の中心にいる燭台切に対して、考えるよりも先に言葉を発していたほどに――。

 ◆ ◆ ◆


 玄関先で壁を背もたれにして、長義は南泉が当番から戻ってくるのを待っていた。
 待つために作業のスピードをあげ、早々に終わらせ、玄関先で南泉を待つことをしていた。
 当番からへとへとの状態で戻ってきて南泉は長義の姿があることに驚きはしたものの、長義の「猫殺しくんと一緒にやりたいことがあるんだ」という言葉に、面倒くさそうな表情を浮かべはしたものの、「汗だくだから風呂いってからにゃ」
と承諾してくれるのだから、彼は優しい。
「もちろんだよ」


 ◆ ◆ ◆


 今日の作業を終わらせた長義は、同じように今日の当番を終わらせた南泉を厨に連れて、燭台切から分けてもらった材料をお披露目する。
「なんだ、これ?」
 材料だけを見せられたところで、それがなんだというのか――それを態度だけでなく言葉でも表す南泉に、長義は満面の笑みを浮かべ「羊羹の材料だよ」と端的に答えを告げる。
「はあ……で、羊羹がなんだってんだ、にゃ?」
「これでね、天の川の羊羹が作れるんだよ」
「天の川の羊羹? ああ、七夕近くになると毎年おやつに出てくるな」
 記憶をたどる南泉に長義は「そう、それを猫殺しくんと一緒に作ろうと思う」と告げる。
「はあっ!?」
 予想だにもしていなかったのだろう。南泉は大きな声をあげる。
 が、そんな南泉の反応は予想通りなので、長義は淡々と己の目的を告げるだけだ。
「君と一緒に作りたいと思ったんだ」
「おっまえは……また、なーんでそういう突拍子もないことをやりたがんだよ……」
 「オレを巻き込むにゃ」と肩をがっくりと落としはするものの、長義が言い出したらきかない性格だということは南泉は重々承知しているので、巻き込むなと言いながらも付き合ってくれるのだ。
 だからそんな彼に長義は満面の笑みを向け、
「君の手元に天の川を置く、というのも、なかなかにおつだと思わないか?」
 一番の目的を告げると南泉はキョトンとし、次の瞬間には頭を抱えしゃがみこみ「……っとに、お前はぁー!」とまた大きな声をあげるのだった。

―了―