2020年12月 初雪

 南泉が顕現し、初めての出陣を経験した日は、初雪の舞う、肌寒さを感じる日のことだった。

 遠征で人の身を持って動くとはどういうことかを教わり、演練で人の身で戦うとはどういうことかを学び、出陣することで人の身で行う実際の戦闘について、知る。
 南泉とは昔馴染みになる物吉と後藤、他は馴染みのない刀で編成された部隊での出陣となった。

 一通りの戦闘に関する経験をさせる際、必ず新たに顕現した刀と馴染みの刀が編成される。
 ――ということが、南泉が顕現した本丸でのやり方だった。

 昔馴染みがいることは気安いが、そこにこだわることも理由も南泉にはなかった。
「とりあえず戦ってりゃいいんだろ」
 顕現した役割を果たせばいいくらいの気持ちだったので、己の戦闘レベルのことなど一切考えずかちこんで、ものの見事に負傷した。それも深手の。
 人の身というものはこんなにも簡単に傷つくものなのだと、流れ出る血を見て、理解した。
 それが南泉の初陣の記憶だ。


 長義が顕現し初めての出陣の際、昔馴染み南泉が部隊に編成された。
 南泉にとって二度目の冬だった。
 このときも雪が降っていた。初雪だ。
 誰かの初陣には雪がついてまわるものなのか? 自分のときのことを思い出し、そんなことを南泉に思わせた。
 ――が、そんなことより、昔となんら変わりのない尊大な態度にイラつくほうが、南泉を気にさせたものだった。
 そして長義がそつなく初陣をこなしたことも……――。


 そして三度目の冬。
「なぁーんでこんなとこになってるんだか……にゃ」
 本丸にある南泉の部屋で、障子が開けられたままの窓の向こうでは、ちらちらと雪が舞っているのを視線の端でとらえながら、敷かれたさわり心地も毛並みも良いラグの上に寝転がりながら南泉は呟く。  すると即座に「なにがだい?」という言葉が返ってくる。
「お前がオレの部屋を好き勝手にしてることとか?」
 寝転がっている南泉のすぐそばに座り、南泉の風になびいても元に戻る猫耳のような形の癖毛をいじっている長義に言葉を返す。
「それは俺にとって居心地の良さを高めるために決まっているだろう?」
「お前の部屋、ここじゃねえぞ?」
「知っているが?」
「……デスヨネー」
 長義がどうして南泉の部屋を好きにするのかも、それを良しとしている南泉自身にも、説明など求めずとも、説明など必要とせずとも、わかってはいるのだが、こぼしたくなるときが南泉にはある。この先、なにをするのか、なにがあるのかをわかっているのだが、気恥ずかしさが勝るときに、つい関係ないことを口にし、意識を他に向けたいとき、だ。
 しかしそんな南泉の心情などお見通しとばかりに長義はいじり続けている南泉の髪を軽く引っ張る。
「いてっ! なにする……にゃっ!」
「俺に集中してない君がいけないんだと思うけど?」
「ほんっとお前は勝手なやつだなぁ……」
 などと言いながらも、南泉は長義の言葉に応えるように、自身の腕を長義に向けて伸ばすのだった。

―了―