9月 秋桜

 南泉は小手先の器用さと、気遣いと配慮のタイミングが抜群なこともあり、審神者が連れて歩く際の選抜メンバー入りをしている。
 とくに他の本丸との交流と情報交換を名目とした審神者刺繍教室には、いつも南泉が付き添っている。
 小手先の器用さを発揮しろとばかりに連れて行かれている南泉ではあるが、毎回しっかりと作品を仕上げているあたり、習ったものは確実に身に付けている。
 今回の刺繍教室でも南泉はハンカチに見事な刺繍を生み出した。

 その完成品を南泉は自信満々にお披露目する。
「見事だろぉー!」
「お見事。お見事。さすが猫殺しくん」
 音で表現するなら、パンパンパン。そんな手の打ち方をしながら、長義は南泉の作品を褒める。
「………………。お前はいつも反応が薄いにゃ」
 褒められてはいる。確かに褒めてくれているのだが、あまりにも抑揚のない言葉で述べられるものだから、いまいち盛り上がりにかける。
 南泉はわかりやすく不満げな顔をしてしまう。
「おや。この褒め方はお気に召さないみたいだね」
 わかりやすい反応をしている自覚はあるだけに、南泉は「んー……」と、口ごもる。
 感情豊かに「すごいね!」と言われたいわけではない。すごいともてはやされたいわけでもない。ただもう少しだけ、一緒に盛り上がってほしいだけなのだが、それは南泉の要望なだけで、要求したことでそうされても、それはそれで不満となる。そういったこと含めて理解するからこそ、言葉にできない部分も大きい。
 しかし視点を変えたら、また違うものが見える。山姥切長義という刀の性格を踏まえれば、どんな形であれ、褒めるということは、本音であり真実だ。

「いや、山姥切はオレにお世辞言うやつじゃにゃいからな。それで十分だわ」
 不満はないのだということを違う言葉で伝えると、南泉はハンカチを折りたたむ。
 今回の刺繍は秋モチーフということで、秋桜だ。秋の花畑を彩るもののひとつ。
 折りたたんだハンカチを長義のジャケットの胸元に差し込めば、小さな花畑が、長義の胸元に作り上げられる。


―了―