6月 傘

 手を伸ばした先には、触れるものはなかった。
「雨、やんだな」
 南泉はさしていた傘を閉じ、そのまま傘を振って雫をはらう。
 飛び散る飛沫に、長義の表情がくもる。おおかた飛沫がかかった、そんなところだろう。
「そんな顔すんにゃよ」
 へらっとした笑みを浮かべながら、南泉が悪びれる様子もなく言葉を紡げば、長義はさらに表情をくもらせる。
「猫殺しくんのそういう変なところで雑なところは、どうかと思うよ……俺にだけ、やってるとしても、ね」
「……わかってんなら、別にいいだろ」
「よくないよ。意識は常にさせておくほうがいいだろ?」
「…………」
 己がきっかけとはいえ、面倒なことを言い出した長義に、今度は南泉が表情をくもらせるのだった。

―了―