5月 じゃがいも

 本丸に刀剣男士は百振り以上存在する。
 数がいるということは、様々な諸費用がそれだけかかる。
 諸費用の最たるものとしてあげられるのが、食費だ。
 本丸の敷地には膨大な田畑が存在しているが、自給自足だけで賄えるものではない。
 ――が、それでも田畑を耕さない選択肢などないので、どこの本丸にも田畑は存在する。この本丸とて、例外ではない。
 今は春作のじゃがいもの収穫についての予定表が配布されたところだ。収穫だけではなく、そのあとの保管に関する要項などについても子細に記載されている。長期保存できる食材は、扱われ方も違うのだ。
 出陣部隊ではなく、その他の本丸の雑事に入ってなければ、じゃがいものために畑当番にされる。無論、南泉は畑当番である。はぁーっと面倒くささを隠さない長々としたため息を吐き出すが、そんな南泉に、浮かれた調子で長義は話しかけてくる。
「猫殺しくん。じゃがいもの収穫が終わったら、またじゃがいものグラタンを作ってくれるかな!?」
「……はっ?」
「去年猫殺しくんが作ってくれたやつだよ。覚えてないかな?」
「覚えてるよ…………」
 じゃがいもをくり抜いて作る、じゃがいもを皮も含め、丸ごと食べるグラタンだ。南泉が去年厨に転がっていたじゃがいもを使い、夜食に作って、長義にも食べさせたものだ。長義はそのことを言っているのだろう。
 だがあれは、わざわざ作ったものではない。厨にじゃがいもが転がっていたから、作っただけのものなのだが……――。
「タイミングがあれば、また作ってやる、にゃ」
 南泉が作ったものが食べたい。長義の言葉の真意はそこにあり、それを無碍にすることは南泉にはできなくて。
 しかしわざわざタイミングがあれば、とするのは、勝手に食材を利用することは禁止されているからだ。理由はそれだけのこと。

―了―