#12:愛とか恋とかみえない形を詰めこむよ。
掲載内容
愛とか恋とかみえない形を詰めこむよ。
ぺたり、ぺたり――のっぺりとした音を奏でながら、南泉は廊下を歩く。
裸足で廊下を歩けば、床の冷たさ、外気の冷たさ、あらゆる冷たさが、身体中の体温を奪っていく――ような気がする。
あらゆるものが冷たいと感じるのは冬という季節がもたらすものであり、冬という季節を堪能するにはその冷たさを活用することが手っ取り早いと言える。
――とはいえ、南泉一文字というこの刀は、寒さが嫌いというまではいかないまでも、特別好んでいるというわけでもない。
寒いよりも暖かいほうがいいし、寒すぎるよりはほどほどがいい。なにごとも中間くらいが丁度いい、そんな風に考えている刀だ。
そんな南泉ではあるが、南泉の格好はだいぶ冬という寒さと対峙するには、無防備さが剥き出しである。なにせ内番着でもあるジャージだけを着ており、ジャージの中はタンクトップ、そして裸足という出で立ち。どう見ても寒さをどうこうしようとはしていない格好にしか見えない。
そんな格好で南泉は給湯室を出て、本丸の長い、長い廊下を歩いていた。背中を丸め、少しでも暖が取れるように両腕でそれぞれをさすり、裸足というなにも守るものがない足を少しでも冷たさから逃すための悪足掻きとして、かかとをつけず爪先だけで足早に歩くことで、この冷たさと相対しながら、歩みを進めていた。
本丸は顕現している刀剣男士の数に応じて増築をしたり、改築をしたり――ということがたびたびおこなわれてきたこともあり、造りとしていびつになっている箇所や、メインでは使われなくなった部屋などが、あちらこちらに存在している。
使われなくなったからといって、放置し、空き部屋としておくわけにもいかないので、どの部屋も今も用途を変更したりしつつ、継続的に利用されている。
そうやって当初の目的とは違うものになったり、メインで使われることはなくなったりした部屋のひとつが、厨だ。手狭になった厨は、今は給湯室として利用されている。
給湯室として使われている元厨には、小腹を満たすための非常食だったり、お八つだったり、厨に置いておけないものが置かれている。
厨は本丸におけるひとつの要。巨大な炊事場には、食事作りに関係のない余計なものは置かないというルールになっているためだ。
そのため厨には置けないものが給湯室には置かれているが、給湯室では名前があれば個のものとされるが、名前が書かれていなければ個のものとされないので、名前の書き忘れをすると誰かに食べられたりするのはざらなので、悲惨なことになるときもある。
南泉も給湯室に菓子などを置いているし、名前を書き忘れて悲惨なことになった経験もある。経験があるからこそ、名前を書き忘れないようにする意識がされるようにもなっている。
名前を書き忘れているものもあれば、あえて個の所有とせず名前が書かれていないものもあったりと、給湯室は不思議な賑やかさがある場所でもある。
そんな給湯室で南泉は暖かな飲み物を作った。密封できるボトルに淹れて、ボトルをジャージのポケットに突っ込んで、冷え冷えとする廊下を歩くのだ。