#10:Continue the World 2

掲載内容
「これでもいろいろ考えたんだよ!」


 南泉が本丸に顕現したとき、本丸には見知った顔が多数いた。南泉が本丸に顕現したあとも、見知った顔が多数顕現した。関わりがある、なし、問わず、付喪神として形を成していなかったときを含め、見知った顔となる刀は数多あるのだということを、改めて感じた。
 その中でときおり、なんでこんなことになったんだ? と思うことのひとつが、山姥切長義という刀だ。
 同じところに長く所蔵されていた。だがそれは山姥切長義だけではない。他にも同じ条件の刀はいる。それなのに、山姥切長義にだけ、特別な感情が湧いている。

 なにかをしたい、ということに、特に意味があるわけでもない。ただの衝動。そういうときもある。
 南泉一文字はただなんとなく、口寂しさを恋仲である山姥切長義で埋めたい。そんな気持ちに駆られていた。
 ――駆られてはいるのだが、彼の刀を探しに本丸をうろつく気概は、ない。
 そういうところは、変に不精さが勝つ。そんな強い性分を持っているのが、この本丸にいる南泉一文字という刀である。

 欲望はある。しかしそのために自ら動くことは好まない。
 言ってしまえばただのわがままである。
 愛されてきた刀の性分か。与えられるのは好むのだが、与えることは少々足踏みをしてしまうのだ。

 なので長義のことを探しにはいきたくない南泉は、ぐっと腕をあげて背伸びをして身体を伸ばすことをしたくせに、そのまま日当たりの良い縁側に倒れこむ。
 そもそも長義は南泉がわざわざ探しにいかなくても、向こうから探しにくる。そういう刀だ。待っていればいずれやってくる。それがわかっているのだから、この口寂しさについては少々目をつむることが一番だ。
 そう結論を出すと、南泉は目を閉じる。彼の刀が起こしにくるまでの休息を得るために。

***

 廊下を強く踏みしめる足音が、板を伝わり南泉の耳に入り込む。
(この足音……)
 夢現の中にいても深く慣れ親しんだものを違えることはない。
 やっときたのかという気持ちと、まだこのまま眠りの縁にいたいという気持ちを天秤にかけると、眠りの縁にいたいほうが勝る。
 己の感情には素直に。
 起こされるまでは、このままで。

 ――などと思考を巡らせていれば、頭上で止まる足音。
「いつまでそんなところで寝ているつもりだい、猫殺しくん」
 そして頭上から落ちてくる言葉。
「んー……気が済むまでか、にゃ?」
 そんな適当なことを口にすれば、どんっと強い音と衝撃が走る。長義が勢いよく座りこんだために発生した音だ。
 座りこんだ長義はその勢いを殺さぬまま、南泉のジャージを引っ張り身体を起こさせる。
「俺がそんなこと許すはずないだろ。はい、起きた! 起きた!」
 身体を起こされた南泉は、長義と向き合う形となる。
(あ、これはチャンス……)
 口寂しさを埋める絶好のタイミング。

 南泉は油断している長義の首元を掴み、体制を崩させると、そのまま唇を重ねる。
(うん、埋まった)
「いきなりなんなんだい?」
 満足する南泉ではあるが、長義は対照的だ。不満、そう言わんばかりの表情を隠すことなく浮かべている。
「オレの口寂しさを埋めただけにゃ」
「……それならもっとやりようがあるんじゃないか?」
「これでもいろいろ考えたんだよ」
「……これで、か。本当に君は短絡的な猫だな」
「猫じゃねぇ、にゃ」
 南泉のことを揶揄する長義の言葉に意図がないことはわかっているので、南泉は適当に受け流す。長義もそれはわかっているのだろう。そこを突っ込んでくることはしない。ただ己の思うままに話を続ける。
「俺は君とは違うからね。今夜しっかりとその口寂しさを埋めてあげるよ」
 綺麗な顔の口角をあげ、底意地悪そうな笑みを浮かべる長義に、南泉は「楽しみにしてる、にゃ」と笑って返すのだった。

―了―