#09:きいてよdarling

掲載内容
episode 1
episode 2


episode 1

「そういやこの間、政府勤めのお前のこと見たわ」

 ゴロゴロとしながら、不意に思い出したから話しておくわ――そんな感じで、南泉は唐突に話しはじめた。
「はっ?」
 しかし長義としては、なんで急にそんなことを言い出した? という気持ちにしかならない。
 ――と、同時に南泉の言う「この間」が、いったいいつを指すのか、瞬時に記憶を遡る。
 南泉が、長義とは別行動をしていて、政府勤めの山姥切長義を見掛ける、この条件が当てはまるのが、いつのことなのか、ということを。

(もしかして、あの日か……?)
 少し前に、時の政府で審神者を集めた全体会議がおこなわれた。南泉はそこに近侍として、審神者と共に、時の政府に行っている。
 会議のためとはいえ時の政府まで行っているのだから、そこで政府勤めの山姥切長義の姿を見掛けたとしても、なんら不思議ではない。
 不思議ではないのだが、少し前ではあるが、それは三ヶ月ほど前のことになる――。

 その三ヶ月ほど前のことを「この間」と言い、なんの脈絡もなく話しはじめる南泉の自由さに、長義の眉間には、わずかながらではあるが、しわが寄ってしまう。
 長義からしたら、今更三ヶ月ほど前の、しかも己の同位体を見たという報告をされたところで、反応に困るし、反応もし辛いというもの。
 そもそも政府勤めの長義を見たことが、直接でも間接でも長義に関係あるとは考えにくい。
 それに、だ……――。
 南泉としては、ただ思い出したから話しておくか――という程度のことなのだろうが、己の同位体といえど、己ではないモノの話をされることが、長義は好きではない。
 例えばそれが褒められていても、それはここにいる長義ではない。だがけなされたとしても、己と同じ見た目に対しそんなことを言うのか、などと思ってしまう。そんな矛盾が常に出てきてしまうのだ。
 それに、だ。ここにいる長義とは違う長義の話であっても、穏やかでいられるほど、できた心は持ち合わせていない。ようはそこに関しては、とんでもなく狭量、ということだ。
 そもそも、今、ここにいる山姥切長義ではない山姥切長義の話を南泉一文字がする、ということが、長義は嫌なのだ。
 己と同じ姿形をした、己とは違うモノに対し、南泉がなにかしらを言及することが嫌なのだ。
 南泉には目の前にいる山姥切長義だけを見ていてほしいというただのわがままなのだが、そんなわがままを要求したくなるほどには、ここの山姥切長義という個体は南泉一文字に対する感情がいろんな意味で振り切っている。

「あ、お前なんかろくでもないこと想像してんにゃー?」
 ゴロゴロと寝転がっている南泉は、長義のことを見上げる状態でいるので、長義はしっかりと南泉の表情が見て取れるわけだが、南泉はなんとも楽しそうな、腹に一物ありそうな、なにかを企んでるとも取れる、そんな表情をしている。
 長義がなんの返事もせずとも意に介さず、勝手に喋りだすくらいには、余裕とも取れる態度を見せていた。
 そして南泉は長義の胸の内など見抜いているのだとばかりの言葉を容赦なく紡ぐ。
「今オレの目の前にいる山姥切長義は、お前のこと以外の山姥切長義のこと話されるの、ほんっとーに! 嫌がるよにゃー」