#08:web log summarize

掲載内容
お裾分け
本丸ピクニック
タイムリミット
色付き飲み物
芋栗南瓜
添い寝(書き下ろし)


お裾分け

「山姥切~っ!」
 掛け声とともに背中には強い衝撃。
 書類整理をしている手が止まるには十分すぎるほどの痛みを伴う衝撃。
「……なんだい、猫殺しくん」
 しかし長義が南泉の突拍子もない行動に怒りをみせないのは、背中から抱きしめられているからだ。
 案外チョロい理由ではあるが、好いている相手から抱擁されて悪い気などするわけがないのだから、致し方ないだろう。
「取り込んだばっかのオレのジャージいい匂いするだろっ!」
「匂い……?」
 言われて意識をすれば、確かにふわっと香る柔軟剤と陽の光をたっぷり浴びた暖かさを含んだ匂い。
「本当だ。お日様の匂いだね」
「部屋に籠もってずっと仕事してるお前にお日様の匂いのお裾分けだにゃっ!」
 そう言って、南泉はさらに強く、長義のことを抱きしめてきた。

―了―


本丸ピクニック

 秋晴れ見事な非番の日。湿度が肌にまとわりつく夏の空気が、からっとした秋の空気へと変化してきたのを実感するような日。肌で感じる過ごしやすさに南泉の気分はあがる。
「なあ! 弁当持って出掛けようにゃっ!」
 まだ布団にくるまっている長義の身体を揺らしながら、南泉はご機嫌な調子で欲望をぶつける。
「……はっ? 君、昨夜は今日はダラダラしようって言ってたと思うんだが?」
 寝起きの悪い長義は起こされたことにも、予定を覆されることにも不服とばかりの、低い声で唸る。
 しかしそんなことに怯む南泉ではない。こんな長義には慣れたものだ。
「気が変わった! めちゃくちゃ天気良いんだから、出掛けなきゃもったいにゃいだろ!」
 窓の向こうに広がる晴天を指差して、意見を譲るつもりのない南泉はさらに言葉を続ける。
「おむすび作るからさー。お前の好きな昆布にバリエーションもつけるから、出掛けようぜぇー」
「…………どうせ俺がうんて言うまで君はだだをこねるんだろ。俺が折れるしかないじゃないか。折れるんだから、甘い玉子焼きと焼き鮭もつけてくれよ」
 妥協案を出してはくるものの、すんなり折れてくれた長義に南泉の表情はぱあっと明るくなる。
「それくらいいくらでもつけるしっ! そしたらオレは弁当作ってくるから、お前はのんびり支度してくれていいから!」
 大きく頷きながら、南泉は部屋を飛び出すのだった。

―了―


タイムリミット

 本を読んでいる長義の背中に、のしかかる重み。
「猫殺しくん、俺は今、本を読んでいるんだけど?」
 この部屋には、長義と南泉しかいない。なにかを仕掛けてくるのは、南泉以外にはありえない。
 ので、視線は本からはずさずに、長義は言葉だけをかける。 「さんじゅっぷん! 経った! にゃっ!」
 すると不平不満が目一杯詰め込まれた言葉が返される。
「あと三十分って言っただろ。その三十分が経ったからもうそれ辞めろよ」
 重みだけでなく手までが延ばされ、約束を守れとばかりに、強制的に本がむりやり閉じられそうになる。
 このまま閉じられては、どこまで読んだかわからなくなってしまう。長義は慌てるふりをしながら「せめて栞を挟んで欲しいんだけど?」と要求をする。
「……散々オレを待たせておきながら、図々しいなお前。図々しいのは今に始まったことじゃにゃいけどなぁー!」
 南泉はさらなる不平不満を連ねてくるが、むりやり閉じようとしていた手を緩め、本に栞紐を挟む。
「これで良いだろ! いい加減オレの相手しろよ!」
 長義の首を絞めかねない勢いで回される南泉の腕。そこから伝わる温もりにひっそりと笑みを浮かべ、長義は本を机へと置いた。

―了―


芋栗南瓜

 なにを食べても美味しい季節ではあるけれど。
「芋」
「栗だにゃー」
「まあ南瓜も捨てがたいけどね」
 答えを出せない話し合いは、不毛である。

「そもそも全部いい感じに揃ってる店はないのか?」
 ふた振りの間にある端末をスクロールしながら、長義はため息混じりにこぼす。
「みっつじゃなくてふたつならないこともなかったけど、お前がもう行きたくないって言った店だ」
「猫殺しくんそれは最初から不可だね!」
「お前は絶対そう言うだろぉー」
 だから候補にもあげなかったんだよ、そう付け加えながら、南泉は長義の手をどけて、端末の画面を叩く。
「新規開拓もしたいんだよなぁ」

 美味しいものを食べるための下調べ。
 限られた時間の中で、確実に美味しいものを食べるためには、下調べは大切なことだ。
 互いに調べた店を出し合って決めるのも楽しいけれど。
 こうして一緒に話をしながら調べるのも楽しい時間だ。

―了―