#04:Continue the World extra
掲載内容
「やっと、君に好きだと言える」
雲ひとつない青空――というわけではないが、気持ち良いほどに空の青さが広がっている。燦々と照りつける太陽は気温をあげる熱さがあるものなので、動いていると少し汗ばむような、そんな気候。
時折吹き抜ける風は、肌で感じている暑さを気持ちばかり下げてくれるようなそんなものとなっている。
本丸のサンルームの窓は雨でなければ常に全開にされているので、日射しだけでなく、風も十分すぎるほど肌で感じられるようになっている。条件が揃えば、抜群の居心地の良さをほこる場所だ。
(このままここで昼寝したらめちゃくちゃ気持ち良いだろうにゃあ)
腕の中にある取り込んだばかりのタオルケットは適度な温もりで、南泉を微睡みへと誘惑してくる。そのくらいの心地良さを放っている。
この腕の中にある温もりを全身にまといごろごろできたら、この上ない幸福に浸れるのではないか――そんなことを南泉に思わせる。
――が、しかし、そんな希望は仲間の刀剣男士の言葉によってあっさりと打ち砕かれ、かなわぬものなのだと思い知らされる。
「南泉っ! 今日は洗濯の量が多いんだから、さっさと動いた! 動いた!」
南泉をせっついてくるのは昔馴染みの一振り、鯰尾だ。
鯰尾が弟たちの面倒をみているときのような声掛けは、サボるな、見てるぞ、という意味合いと、南泉に指示を与えて、少しでも早く当番を終わらせようという腹積もりからだろう。
だがそれに反発する気は南泉にはないので、せっつくな、そんな気持ちも含めて返事をする。
「わかってるよ! にゃっ!」
鯰尾の言うように、今日は本当に洗濯物の量が多いのだ。洗濯当番としては、仕事がありすぎて大変すぎるくらい大変な状態だ。
気がつけば、本丸はかなりの大所帯となっていた。南泉が顕現したときにも大所帯だとは思っていたが、その頃よりも刀剣男士はだいぶ増えた。
最初はそこまでではなかったという家屋も、増築に増築が重ねられ、大きなものとなっている。
鍛練場も手狭になったために増築されているし、厨も同じように増築されているし、田畑もかなりの大きさへと拡張されている。
そしてこのサンルームだ。
大所帯ということは、洗濯物の量もすさまじい。
さらに洗濯物は天候に大きく左右される。この本丸の審神者は天候に不確定要素を導入しているので、日によって天候が変わる。天候によって洗濯物が干せるかどうかが左右されっぱなしでは、悪天候の際はいつまでも洗濯ができない。
また洗濯ができても、干す場所がなければ意味がない。庭に洗濯物を干すスペースはあったが、晴れた日にしか使えない。屋根を付けたとしても横殴りの雨では用途をなさないし、雨の日は他の場所に干そうとすれば、洗濯物の量が膨大すぎて、干したところが使用できなくなる。
それを解消するために、この本丸には大きなサンルームが作られた。
――なお乾燥機の導入についても議論はされたらしいが、壊れたときと置き場所の問題から見送られたという余談がある。
あったら便利なものではあるが、絶対必要なわけではない、という判断らしい。
今日はタオルケット類の大物が大量に出されたこともあり、衣類以外の洗濯物がすさまじいことになっていた。先ほど鯰尾が言っていた、洗濯の量が多い原因だ。
干すのも取り込むのもかなりの重労働だが、南泉はすでにタオルケットを取り込んでいることもあり、腕の中に次々にタオルケットを増やしていく。
取り込みさえすれば畳んで分類をしてくれる刀がいるので、南泉はとりあえず取り込むことを優先する。腕が重くなったところで畳んでくれる刀のところに置きにいき、また取り込みにいく。そんな作業の繰り返しをしていれば、あっという間に取り込みは終わりを告げる。
干されていた洗濯物がすべて取り込まれた状態で天井を見上げれば物干し竿だけが残り、その物干し竿越しに青い空が目一杯広がる。
ぐっと腕を伸ばし、さらに背中を伸ばし、己の請け負った分が終わった開放感を堪能するように、南泉は思いっきり身体を伸ばす。
「ん~。終わった、終わった」
すべてが終わったわけではないが、ここまでくればほとんど終わったようなもの。終わったと口にしたところで、そこまでの間違いではないだろう。なにせあとは畳まれた洗濯物を持ち主の元へと届けるだけなのだから。
その正確な終わりを迎えるための声が掛けられる。
「南泉~南泉はこっちのやつ届けて~」
「おぅ。わかったにゃ」
割り振られた綺麗に畳まれた洗濯物は、持ち運びしやすいようにかごに入れられている。このかごを持って洗濯物を届けに行くのだ。
さっさと終わらせて、ごろごろするぞ! と、南泉が割り振られたかごを手にしようとしたとき。
「猫殺しくんっ!」
いつになく弾んだ声音が耳に飛び込んでくる。
南泉のことを猫殺しと呼ぶ刀は一振りしかいない。
そもそもこの声の主の声を南泉が聞き間違えることもないが、それをわかりやすく態度に出すようなこともせず、むしろわざと面倒くさそうな態度で、声の方向へと顔を向ける。